十三代目市川團十郎襲名が決まった市川海老蔵

「歌舞伎」の世界から、映画やテレビドラマの世界にも飛び込み、際立った個性と演技で視聴者を釘付けにしている歌舞伎役者達がいます。近年は従来の時代劇だけでなく、現代劇に出演する姿も多数見られ、若手の歌舞伎役者が歌舞伎を演じるときの独特の濃い化粧ではなく、素顔で登場し、そのイケメンぶりを見せてくれることも大きな話題に。さらに、欧米発祥のミュージカルを日本に定着させたパイオニアのひとりが、なんと歌舞伎役者だという事実も!歌舞伎の世界以外でも輝く歌舞伎役者達をご紹介します。

カリスマ性が高い十一代目市川海老蔵さん

歌舞伎界の次の大黒柱と期待される「市川海老蔵」(いちかわえびぞう:1977年[昭和52年]生まれ)さん。

2004年(平成16年)にその前名である「市川新之助」(いちかわしんのすけ)から十一代目市川海老蔵を襲名した際の歌舞伎座公演での演目には、歌舞伎の宗家と言われる「市川團十郎」(いちかわだんじゅうろう)家のお家芸「歌舞伎十八番」(かぶきじゅうはちばん)をズラリと並べ、さらにお披露目公演はパリの国立シャイヨー劇場でも行われるなど、その期待の高さが窺えました。

その襲名と前後して、2003年(平成15年)にNHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」で主人公「宮本武蔵」を熱演。2006年(平成18年)には横山秀夫原作「出口のない海」の主演を務め、映画デビューも果たしました。また、2011年(平成23年)に出演・公開された「三池崇史」(みいけたかし)監督の「一命」は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されています。

以降、歌舞伎界の「プリンス」として、歌舞伎はもとより多方面で俳優としての活躍を続けていますが、彼を真に「歌舞伎の未来を担う市川海老蔵」という存在へと向かわせたのは、2010年(平成22年)、酒の席でのトラブルから全治2ヵ月の大怪我を負い、活動を休止した出来事が大きかったと言われています。

このとき、父である十二代目市川團十郎(2013年[平成25年]没)は、息子の市川海老蔵さんの驕(おご)りをそれはもう厳しく叱り、謹慎・休業させました。一方、2010年(平成22年)に結婚した麻央夫人(2017年[平成29年没])がその間、市川海老蔵さんを包み込むようにして献身的に支え、変えていったと言われています。

なお、市川海老蔵さんの十三代目市川團十郎襲名は、すでに決まっています(コロナ禍で襲名公演延期中)。市川團十郎という名跡は、歌舞伎界最高の突出した大きな名跡です。教えを受けたい父はすでにいない中、背負う重圧は他人には計り知れないものがありますが、昨今、ますます役者としての艶が出てきた感がある市川海老蔵さん。

何と言っても、観ていると吸い込まれそうな目力を活かした「見得」(みえ:劇的な盛り上りに達したとき、俳優が一時動きを停止し、ポーズを取ること)には圧倒的なオーラがあり、その姿はまるで浮世絵から抜け出してきたよう。歌舞伎ファンならずとも、多くの人が、令和時代の新たな市川團十郎の誕生をわくわくしながら待っているのではないでしょうか。

名門芸能一家で知られる松本幸四郎

八代目市川染五郎、十代目松本幸四郎、二代目松本白鸚
八代目市川染五郎さん(左)、十代目松本幸四郎さん(中央)、
二代目松本白鸚さん(右)

「歌舞伎界のイケメン親子は?」という問いに、多くの人が思い浮かべるのが、「松本幸四郎」(まつもとこうしろう)親子ではないでしょうか。

「高麗屋」(こうらいや)を屋号とする松本幸四郎家は、現在活躍する二代目「松本白鷗」(まつもとはくおう、1942年[昭和17年]生まれ)、十代目松本幸四郎(1973年[昭和48年]生まれ)さん、八代目「市川染五郎」(いちかわそめごろう:2005年[平成17年]生まれ)さんの3代にわたって目鼻立ちが整ったイケメンだと評判です。

そして、この松本幸四郎家の3人は、2018年[平成30年]に、直系の親・子・孫3代同時襲名(それぞれの父の名跡を受け継ぐ)を実現。襲名披露公演では、お家芸とも言える「勧進帳」(かんじんちょう)を、史上初の直系3代による弁慶・富樫・義経の組み合わせで演じ、観客を大いに沸かせました。

実は、松本幸四郎家、何と1981年(昭和56年)にも同じ3代同時襲名を行っており、これができるのは、代々直系の男子が続いているから。名門であり華麗な歌舞伎一家の顔を持つ松本幸四郎家は、テレビドラマや映画の他、現代劇の舞台、ミュージカルでの活躍も目立っており、そのファン層の広さは歌舞伎界でもピカイチ。

二代目松本白鸚さんは、テレビドラマでは三谷幸喜(みたにこうき)さん脚本の「王様のレストラン」などで歌舞伎を知らない人にもその存在を知らしめ、映画では「キネマの天使」、「良寛」、「HERO」といった話題作に出演。

なかでも、二代目松本白鸚さんが歌舞伎以外でその名優ぶりを存分に発揮しているのがミュージカルです。実は二代目松本白鸚さんは、六代目市川染五郎の時代からミュージカルの主演を務め、日本のミュージカル界ではパイオニアのひとり。「王様と私」、「ラ・マンチャの男」など、再演を重ねる作品に主演しています。特にラ・マンチャの男は50年以上に亘り通算1,100回を超える上演を数え、これは日本での最多上演記録です。

その息子、十代目松本幸四郎さんは、十一代目市川海老蔵さんとともに歌舞伎界の次世代のリーダー格と言われている存在。歌舞伎では、荒事、世話物、舞踊、新作もできる芸域の広さが高く評価され、役柄もキリリとした「立役」はもちろん、「女形」や「実悪」と呼ばれる悪に徹する敵役、悪人の「色悪」もこなします。

そんな十代目松本幸四郎さんの魅力は、市川染五郎時代の著書「染五郎の跳躍的歌舞伎」で自身が「受け継いで進化させてこそ家の芸」と語っているように、23歳のときに自主公演の歌舞伎勉強会「市川染五郎の會」を立ち上げるなど新たな試みに果敢に挑んでいる姿勢。

3代同時襲名公演の勧進帳で彼が魅せた「武蔵坊弁慶」に驚いた歌舞伎関係者は多く、従来の迫力ある弁慶をしっかりと受け継ぎながらも、「こんな綺麗で艶のある弁慶、観たことない! 武蔵坊弁慶に美という要素を加えると、なるほど、こんな風になるんだ」と、通の歌舞伎ファンを感嘆させたと言われています。

こういった挑戦の姿勢は、父と同じく、現代劇、テレビドラマ、映画、ミュージカルなど多方面においても発揮。「現代の歌舞伎!」として話題になった「劇団☆新感線」(げきだんしんかんせん)の舞台「髑髏城の七人」(どくろじょうのしちにん)の2004年(平成16年)上演での主演は、大きな注目を集めました。

また、現十代目松本幸四郎さんの姉「松本紀保」さん、妹「松たか子」さんも女優として活躍しており、まさに華麗なる芸能一家なのです。

ミュージカルでも名を馳せる二代目尾上松也さん

二代目尾上松也
二代目尾上松也さん

ここ数年、活躍の場を一気に広げてきている若手歌舞伎役者のひとりが、涼やかな目元と全身から漂う色気が魅力の二代目「尾上松也」(おのえまつや:1985年[昭和60年]生まれ)さん。「音羽屋」(おとわや)を屋号とする「尾上松緑」(おのえしょうろく)家の一員で、父は六代目「尾上松助」(おのえまつすけ:2005年[平成17年]没)です。キリッとした二枚目の他、可憐な女形なども情感たっぷりに演じます。

常に大役がもらえる名門の出身ではない尾上松也さんが人気者となったのは、端正な容姿も一因ですが、チャンスを確実にものにしようという積極的な姿勢が挙げられます。若手歌舞伎役者の登竜門と言われる「新春浅草歌舞伎」(毎年正月に東京の浅草公会堂での松竹による歌舞伎興行)において、2014年(平成26年)から連続してリーダー的な立場で若手を率い、成長の足掛かりにしてきました。

ファンを魅了するチャレンジ精神は歌舞伎以外でも大いに発揮され、NHK大河ドラマ「天地人」の前田利長役、映画「源氏物語」の頭中将役、また近年ではTBS日曜劇場「半沢直樹」への出演など、幅広く活躍。

テレビではバラエティ出演も多いのですが、それは俳優としてのしっかりとした土台があってのこと。特に、ミュージカルにおいて、持って生まれた滑らかな声と歌舞伎で鍛えた声に「色」を付けて伝えるテクニックで、確かな存在感を発揮しています。「ロミオ&ジュリエット」のベンヴォーリオ役や「エリザベート」のルキーニ役などで確実に結果を出し、ミュージカルスターとしての道も歩んでいるのです。

そんな尾上松也さんがミュージカルの道も志すきっかけになったのは、20歳のときに四代目「市川猿之助」(いちかわえんのすけ)に連れられて観た劇団四季の「ライオンキング」。父を亡くした時期であったことから、家族を何とか養わなければという使命感も合わさり、カラオケで歌を練習しながらオーディションに果敢に挑戦。しかし、なかなか夢はかなわず、20代後半に突入。そんな中で出会ったのが、舞台演出家の「蜷川幸雄」(にながわゆきお:2016年[平成28年]没)でした。

2012年(平成24年)に蜷川幸雄演出の「ボクの四谷怪談」に出演した際、稽古の過程で蜷川幸雄監督からかけられる言葉は、「他にないの? もっと考えろ!」のみ。悩みに悩んで、ある意味「もうやるしかない」と開き直り、舞台開演の前日に思いっきり表現してみた結果、蜷川幸雄監督を笑顔にする演技が生まれたと言います。それは、羞恥心を完全に捨てさり、解き放たれたような感覚を得た瞬間だったと語っています。

歌舞伎以外に挑戦するラストチャンスだと覚悟していた28歳のときのことで、奇しくもその演技がボクの四谷怪談を観に来ていたミュージカル監督の目に留まり、翌年の2013年(平成25年)にオーディションを経て、ロミオ&ジュリエットへの出演に繋がりました。

現在は、「山崎育三郎」(やまざきいくさぶろう)さん、「城田優」(しろたゆう)さん達と立ち上げたプロジェクト「IMY」(アイマイ)でも活躍しています。

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