203_居合刀と模造刀の違いは?

「居合刀」と「模造刀」の違いは、居合刀が実用の刀であるのに対して、模造刀は主に鑑賞用の刀であることです。居合刀は現代武道のひとつ「居合道」に用いる刀で、安全に競技や演武を行うための刀であるため殺傷能力はありません。一方、模造刀は日本刀を模して造られた、刃を持たない、すなわち切れない刀のこと。つまり模造刀は切れない刀の総称であり、居合刀はその一種なのですが、先述のように実用と鑑賞用の違いがあるため、その造りや扱い方が異なるのです。そこで、居合刀とはどのように使う刀なのか、また模造刀の魅力と楽しみ方などをまとめてみました。

居合刀を用いる居合道は異色の剣技

居合刀は主に「居合道」という武道に使用します。居合道は、対戦者と刀を交わさず、ひとりで座った状態で、から刀剣を抜き放ち、納刀に至るまでの技術を高める武道です。

試合は斬り合うのではなく、技や形を演武し、審判員の多数決や採点で勝敗を判定します。これは、日本刀での勝負は刀身を抜いた時点で決まるという考え方に基づいているのです。

居合刀という刀を用いながらも斬り合わない異色の剣技、居合道はどのようにして成立したのかをたどってみましょう。

居合道の必需品である居合刀についてご紹介します。

居合道のルーツ、抜刀術の始祖・林崎甚助

203_居合術・抜刀術
居合術・抜刀術

居合道のルーツは「抜刀術」という初撃で敵を制することをめざした剣術です。抜刀術は室町後期から戦国時代にかけて、剣術と抜刀の技術が切り離されて生まれました。

この抜刀の技術を極め、抜刀術として完成させたのは、戦国時代から江戸時代にかけて名を馳せた剣客(けんかく)、「林崎甚助」(はやしざきじんすけ)です。

林崎甚助は父親を闇討ちで亡くしたため、仇を討ち、父の無念を晴らさんと武術に精進し、抜刀を鍛錬しました。

そして仇敵を討ったのちは多くの弟子を育て、「神夢想林崎流抜刀術」(しんむそうはやしざきりゅうばっとうじゅつ)を創始したことで知られているのです。

抜刀術から、座して刀を抜く居合術へ

その後、抜刀術は林崎甚助の弟子達によって洗練され、色々な技術が編み出されていきます。

特に重視されたのが、室内で短刀を持って襲い掛かってきた敵に対し、座して刀を抜き、戦闘態勢に移行する技でした。

こうして抜刀術は座位を中心とした武術、居合術へと発展していきます。このため、居合には「座る」の意味を持つ「居」の文字が使われているのです。

また、居合術の前身となった抜刀術を創始した林崎甚助は「居合の開祖」と言われています。

居合術は現代武道・居合道に進化

徳川慶喜大政奉還を行い、新たな時代の幕開けとなった明治初期に四民平等の思想が誕生し、武士階級が崩壊。

そして、1876年(明治9年)には明治新政府が軍人や警察官以外の帯刀を禁じる「廃刀令」を公布しました。その後、昭和時代初期の太平洋戦争後にはGHQが日本国民の非武装化をもくろみ、個人所有の日本刀は押収されてしまいます。

このように、明治時代に入ってから、日本刀を扱う居合諸流派にとって不遇の時代が続きました。

それでも各流派の尽力で、1954年(昭和29年)に全日本居合道連盟が結成され、居合術は真剣ではなく、専用の居合刀を用いる現代武道、居合道として命脈を保つことになったのです。

居合刀の材質や製法

居合道では、抜刀、抜き付け、振りかぶりなどの所作を行うため、居合刀は所作の稽古や試合に耐える強度を備えていないとなりません。この強度を実現するには、砂で造った鋳型に合金を流し込む砂型鋳造が適していると言われています。

大量生産向きのダイカスト鋳造法が溶解金属に圧力をかけて高速で形成するのに対し、砂型鋳造は時間をかけてじっくり冷却するため刀身の密度が高くなり、強度の高い居合刀ができあがるのです。

また、居合刀の原材料には一般的にアルミニウムの比率が高い合金が使われます。この合金は軽い上に強度が高く、刀身に樋を彫って軽量化するなどの加工もしやすいのです。

模造刀の魅力

模造刀は刃を備えていない、切れない刀の総称です。そこに居合道に用いる居合刀も含まれますし、観光地の土産物店などで販売されているプラスチック製もあれば、天然木の表面にメッキ加工を施して外見は本物の日本刀と遜色ない仕上がりにした物もあります。

なかでも最高級の模造刀は本物に近い素材や部品を使って丹念に作り込まれており、一見では本物の刀と見分けがつきません。有名な武将や剣豪の愛刀を忠実に再現した模造刀も多く、愛好家はその外観や来歴を楽しみます。

こうした模造刀は取り扱い店舗やインターネット通販で購入でき、鑑賞目的の他にもコスプレや演劇の小道具などに幅広く用いられているのです。そうした模造刀ならではの特長や魅力をご紹介しましょう。

近年、人気が高まっている模造刀についてご紹介します。

安価で入手でき、名刀を所有する喜びを味わえる

本物の日本刀は大変高価ですが、それに比べると模造刀は入手しやすい価格であるため、模造刀であれば名将や剣豪、幕末の志士の愛刀を所有し、触れたり間近で鑑賞したりすることが可能です。

また模造刀は実在の真剣を模した物ばかりでなく、漫画やアニメに登場する架空の刀を具現化した物もあります。主人公と刀を共有し、物語の世界に浸れるのは模造刀ならではの楽しみでしょう。

表情豊かに刃文を再現

高級な模造刀には、日本刀の刀身に見られる白い波のような模様「刃文」があります。

本物の刀剣・日本刀は土置きをして焼き入れを行う工程で刃文が作られますが、模造刀はクロムメッキ加工を施した刀身の表面にヤスリで研削(けんさく:表面を滑らかにするために、砥石などで削ること)し、模様を付けるのが一般的です。

このヤスリがけ作業で、直刃(すぐは)や小乱(こみだれ)、互の目(ぐのめ)など、多種多様な刃文を再現します。

名古屋刀剣ワールドで販売している模造刀

名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」では、多数の模造刀を販売しています。今回は、その中から博物館の所蔵品をもとにしたオリジナル模造刀2振をご紹介しましょう。

【ハートマークショップ】名古屋刀剣ワールド ミュージアムショップ
ネット通販サイトでは、刀剣にまつわる歴史品(模造刀・グッズ)が購入できます。

太刀 銘 包永(金象嵌)本多平八郎忠為所持之 レプリカ

203_太刀 銘 包永(金象嵌)本多平八郎忠為所持之 レプリカ
太刀 銘 包永(金象嵌)本多平八郎忠為所持之 レプリカ

モデルとなった「太刀 銘 包永(金象嵌)本多平八郎忠為所持之」は、鎌倉時代中期の名匠「包永」(かねなが)が鍛え、「徳川家康」の重臣「本多忠勝」(ほんだただかつ)の孫、「本多忠刻」(ほんだただとき)が所有した名刀として有名で、特別重要刀剣に指定されています。

この模造刀は作りが頑丈なため、鑑賞用としてはもちろん居合刀としても使用可能です。柄巻には最高級の鹿皮を使用しており、握ったときの手触りはやわらかく、手にしっくりと馴染みます。

短刀 銘 備州長船住長義(名物大坂長義) レプリカ

203_短刀 銘 備州長船住長義(名物大坂長義) レプリカ
短刀 銘 備州長船住長義(名物大坂長義) レプリカ

モデルにした「短刀 銘 備州長船住長義」は、名工「正宗」の10人の高弟を指す「正宗十哲」(まさむねじってつ)のひとりで鎌倉時代末期から南北朝時代初期にかけて活躍した刀工「長義」(ながよし/ちょうぎ)の作。

豊臣秀吉」が、親しい間柄であった「前田利家」に大坂城内にて譲ったという説から、「大坂長義」と呼ばれています。戦前には国宝に指定されており、現在は重要文化財です。

鞘には黒艶ウレタンを施し、には高級な鮫皮を使用して、江戸時代初期に作られた「黒漆塗鞘合口拵」を復刻しました。

居合刀、模造刀を所持する際の注意点

居合刀も模造刀も、刃物や刀剣類には該当しないため、日本刀のように都道府県教育委員会による許可や都道府県公安委員会への届出は必要ありません。

しかし、一見して本物と見分けのつかないほどの出来栄えの物も多いので、所持するには配慮が必要です。

そこで、居合刀や模造刀を扱う際の注意点をご紹介します。

他者を不安にさせない配慮を

203_刀袋に収納した居合刀
刀袋に収納した居合刀

居合刀も模造刀も殺傷能力のない刀ではあるものの、刀身の先端は尖っており、重量もあるため、他者を傷付けてしまわないように慎重に取り扱う必要があります。

また、持ち運ぶ際には刀袋やケースなどに入れ、「日本刀を持ち運んでいる」と誤解されないように配慮しましょう。なお、刀袋やケースは居合刀や模造刀を扱う店で購入できます。

居合刀、模造刀の手入れ

居合刀や模造刀の汚れが目立つ場合は、やわらかい布で拭き取り、そのあとは布や紙に刀油(丁字油や椿油など)を染み込ませて軽くぬぐうことで、きれいに保てます。

また、居合刀も模造刀も、手入れの際に本物の日本刀のように打ち粉で研磨してはいけません。刀身表面のメッキが剥がれ、その傷から錆が生じることがあるのです。

居合刀を手入れする際の注意点

本物の日本刀は、鞘や柄などを取り外して刀身を手入れできるように作刀されていますが、居合刀は分解することを想定して作刀されていません。そのため、分解すると再度装着しても、ガタつきが生じることがあるので注意が必要です。

この状態で居合刀を使用し続けると、破損したり、安全性が損なわれたりする恐れがあります。