錆びた日本刀はどうすればいい?

気温・湿度ともに最適となる春は、刀剣・日本刀をお手入れするチャンスです。ご先祖様から受け継いだ、錆(さび)だらけの刀剣・日本刀があるならば、今こそ鞘から抜くことができるかもしれません。ジメジメする梅雨を迎える、その前に。あの手、この手をご紹介します。

錆びた日本刀を受け継いだら

刀剣・日本刀が私の家にもあったら良いのになっ♪

そんな軽い気持ちで祖母に訊ねてみたところ、何と我が家にも、先祖代々受け継がれてきたという刀剣・日本刀があると言われました!

早速、見せて欲しいとせがんだところ、祖母ににっこりと微笑まれ、仏壇がある部屋の押入れ上にある天袋を指差されたのです。

天袋の戸を開けてみると、何やら古い新聞紙に包まれた物体があるではありませんか。早速、取り出して、包装を剥がしてみると、さらに白い布に包まれた、大小(打刀脇差)の刀剣・日本刀が出現しました。

何と、イメージしていた白鞘ではなく、黒鞘に入ったままというぞんざいな扱い。その黒鞘も劣化でボロボロ。

恐る恐る鞘を抜いてみると、やはり、予想通り、刀身錆だらけでした~。

あまりにも酷いその姿を観て、

「だめだこりゃー。」と言ってしまったところ、

「そんなことないよ。大きいのはそうでもないけれど、脇差は相当の価値があると亡くなったおじいさんが言ってたもの。」と祖母。

「それならすごいじゃん。(めい)を確認してみようよ。」

私は、を外して(なかご)に記してある銘を観ることを提案したのです。

柄から抜けない日本刀

かねてから、刀剣・日本刀のオーナーとなって、一度柄を抜いてみたいと思っていた私。手順はしっかりと頭に入っていました。

やり方は、まずは目釘抜きを使用して、目釘を抜く。次に左手で柄を握り、右手で左手の手首あたりをトントン叩く。すると、簡単に柄が抜けるはず!

目釘抜き

目釘抜き

すぐに、購入してあった目釘抜きを構えて、スタンバイ。ところがです。なぜか、すでに目釘が抜かれていることが発覚しました。しかし、柄は抜けません。

仕方なく、そのまま左手で柄を握り、右手で左手の手首をトントントン。そうすれば、簡単に、外すことができるはずなのに、抜けない~。

錆が酷すぎるのか、どんなに左手首を叩いても、びくとも動きません。こうなったらと、刀身を布でくるんで力まかせに引き抜こうとしてみましたが、全く、抜けません~。

調べてみたところ、そんな抜けない刀身を柄から抜くには、いくつかの方法がありました。

  1. ① 部屋の湿度を高める

    冬の間は空気が乾燥しているので、鞘の原料である「木材」が収縮してしまうため、抜けなくなります。部屋を加湿し、木材が緩むことで、刀身が抜けやすくなります。

  2. ② ゴムハンマーで叩く

    布で刀身部分を持ち、柄の部分をゴムハンマーで叩くこと。ゴムハンマーであれば、柄を傷めることはありません。

  3. ③ 「5-56」などの防錆潤滑剤を使用する

取り急ぎ、①、②の方法を試してみることに。

しかし、残念なことに、どんなに加湿しても、どんなにハンマーで叩いても、柄は1mmも動かず、まったく歯が立ちません。③の防錆潤滑剤はちょうどそのとき在庫がなく、試すことができませんでした。

こうなったらと、せっかちな私は、第4の選択「柄を破壊する」ことも辞さないのではないかと、思い詰めていたのです。

登録証が見つかる!

柄が外れない。茎の銘を観ることができない。それならば、もう柄を破壊するしかない。せっかちな私が切羽詰まっていたそんなとき、祖母が可愛らしい声で、話しかけてきたのです。

「銘が見たいなら、登録証に書いてあるはずよ。」

「登録証があるんかい!」

祖母は、昭和35年と書かれた、ほぼ名刺サイズの小さな登録証を私に手渡してくれました。

銘文は「無銘」。

「なんだ、無銘か。」と、がっかりする私。

「無銘だって、良い物と言われたんだよ。」と祖母。

確かに。私の実家は神奈川県相州伝(そうしゅうでん:現在の神奈川県)で作刀された刀剣・日本刀は無銘で上等な物が比較的多いと言われています。

「観世正宗」「亀甲貞宗」は無銘でも国宝です。無銘の重要文化財、無銘の重要美術品など、山ほどあります。

無銘と分かった以上、柄を破壊することは、一端中止。刀剣・日本刀をじっくり眺め、向き合ってみることにしました。

日本刀の錆を取るには?

価値があると言われた、錆だらけの脇差をまざまざと観察した結果、板目肌であることが確認できました。これは、相州伝に違いない!刃文は、よーく観ると、互の目丁子(ぐのめちょうじ)があるような、ないような。

互の目丁子

互の目丁子

錆びているなんて、本当に憎らしい。錆を取って、この脇差を観察したい。私でも簡単に錆を取る方法はないかどうか、調べてみることにしました。

その結果、どの書籍を見ても、どのホームページを見てみても、素人が刀剣・日本刀の錆を取ることは望ましくない、研師に任せるべきだと書いてあるではありませんか。研師に出さないで、自分で錆取りをすると、価値を下げてしまう可能性がある

研ぎの相場は、1寸(3cm)で1万円。脇差は38cmあるから、ざっと13万円。

本当に価値があるのか疑わしいのに、13万円出すのには少し躊躇してしまいます。祖父の話にどれだけ信憑性があるのか、私は祖母に話を聞いてみました。

祖母が言うことには、ご先祖様は立派な方だったそう。そもそもは源頼朝の家臣で、武士でありながら名主を務め、さらに江戸時代には漁業の元締めと蜜柑山を経営する商家を起こしてかなりの大金持ちだったのに、関東大震災と戦争ですべてを失い、今日に至るとのこと。

源頼朝の家臣だったなんて、名主で大金持ちだったなんて、残念ながら、にわかに信じがたいです(笑)。

柄には目貫として、表には鯛をかついだ恵比寿様、裏には大根を持った大黒様の彫刻があるので、大漁や豊作を願った商家と言われれば、そうなのかもしれませんが。

それでも、この2振の刀剣・日本刀のおかげで、祖母から我が家の歴史を聞くことができたのは、とても大きな収穫でした。

なお、私には勇気がなくてできませんでしたが、刀剣・日本刀の錆を取る簡単な方法としては、木工用ボンドを厚く塗り、よく乾燥させたボンドをベリッと剥がすと、わりと錆が取れるよう。

木工用ボンドで錆取り

木工用ボンドで錆取り

また、少ない錆なら「5-56」などの防錆潤滑剤を使用すれば、落とすことができるそうです。さらに、めがねクロス(眼鏡拭き)で仕上げると、油膜を落とすことができるとのこと。
※ボンドや防錆潤滑剤は地鉄を傷めるので止めたほうが良いなど、諸説あります。

もはや、ここまで錆びてしまったならば、研師にお願いするしかないようですが、そんな急ぐ必要も感じません。

「この脇差は、無銘正宗かもしれないし、無銘貞宗かもしれない。だとしたら、何百万円、または何千万円もするんじゃないかしら。」

絶対、そんなに高価な物であるはずはないけれど。不思議なもので、そう想像するだけで、ちょっとだけ気分が明るく、懐も暖かく感じられるようになりました。

いっそ、このまま研ぎにも鑑定にも出さないで、子孫代々、根拠のない大きな夢を持ち続け、大切にしていくのも悪くないかもしれません。