大作洋画にも登場! 個性的な日本刀と甲冑
- 小
- 中
- 大

「サムライ」や「ニンジャ」が、ハリウッド映画でも取り上げられるようになって久しい昨今。伝統的な日本文化の影響力は、もはやマニアックなジャンルの映画には留まりません。世界中で話題となり、歴史的大ヒットを記録した大作にも、刀剣・日本刀や甲冑(鎧兜)は登場しているのです。
武器はオリジナルデザインの日本刀
- アベンジャーズ/エンドゲーム
-
2019年(平成31年)のアメリカ映画。「アンソニー・ルッソ」・「ジョー・ルッソ」監督。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU:マーベル・スタジオ製作の実写版アメコミ作品が共有する世界観)のヒーロー達が結成したチーム「アベンジャーズ」。その活躍を描く大人気シリーズの最終章。※この記事では、予告編で見られるレベルですが、作品の内容にふれています。未鑑賞の方はご注意を。
篠突く雨の東京、歓楽街にて。弓の名手であり、初期アベンジャーズメンバーのひとり、「ジェレミー・レナー」演じるホークアイが、刀剣・日本刀を使う裏社会の男達と激しい戦いを繰り広げています。敵方のボスを演じるのは「真田広之」で、迫力満点の殺陣を披露。真田氏は、殺陣の腕前を見込まれて、マーベル・スタジオから直々にオファーを受けたと言われています。
この戦いで、ホークアイが手にしているのが弓ならぬ片刃の剣。その武器は、刀身の「峰/棟」(みね/むね)側が短冊状にくり抜かれているように見えます。これが刀剣・日本刀の一種であるとしたら、非常に珍しい形状です。
このように刀身を貫通させたデザインの刀剣・日本刀は、実際に存在するのでしょうか。また、透かしを入れる理由とは?
見事な透彫が入った名短刀 庖丁正宗
刀身にはっきりとした透かしのある刀剣・日本刀として、真っ先に思い浮かぶのが、「庖丁正宗」(ほうちょうまさむね)です。

庖丁正宗 日向延岡藩主内藤家伝来
刃長7寸1分3厘(21.6cm)の短刀で、調理に使う包丁に刀姿が似ていることからこの名が付きました。庖丁正宗の名を持つ短刀は、3振が現存し、いずれも国宝に指定されています。
「正宗」は、鎌倉時代末期に活躍した相模国(現在の神奈川県)の刀工です。「相州伝」を完成させたと言われる、刀剣・日本刀界のリーディングブランドでありながら、生没年は不明。作品に銘を切ることはほとんどなく、現在、国宝に指定されている9振も無銘、もしくは後世の鑑定家が銘を施した金象嵌銘(きんぞうがんめい)です。
ここでご紹介する庖丁正宗は、日向延岡藩(現在の宮崎県)藩主「内藤家」に伝来した、「庖丁透かし正宗」とも呼ばれる1振。刀身に「護摩箸」(ごまばし)の文様を透彫(すかしぼり)として、下に「爪」(つめ)と呼ばれる図柄が添えられています。
護摩箸とは、「不動明王」(ふどうみょうおう)の化身のひとつでもある密教具のこと。刀身彫刻としては、同じ幅の2本の直線で簡素に表現されます。爪は猛禽類(もうきんるい)の爪のように湾曲した筋状の図柄で、「三鈷柄剣」(さんこづかけん)の爪部分を意匠化しています。

三鈷柄剣
どちらの文様も仏教への信仰と密接なかかわりがあり、煩悩(ぼんのう)を祓い、魔を退散させる力があると信じられてきました。
透彫のメリット・デメリット
このように、所有者を守護するという意味で施される刀身彫刻ですが、透彫は技術的にたいへん難しいと言われている上に、刀身に透かしを入れると、どうしても強度は落ちてしまいます。そのため、現存する刀剣・日本刀で透彫のある作品は、脇差か短刀なのです。
ホークアイの武器は、少なくとも脇差ほどの長さはありますが、身幅が広いので、強度に関しては問題ないのかもしれません。しかも、決して大柄ではない彼が自在に振るうために、重量を軽減する目的で刀身がくりぬかれているとも考えられます。
また、刀身彫刻には、デザイン性を高めるという意味もあり、高度な技術力が求められる透彫は、刀工や刀身彫刻師の腕の見せどころとなるのです。実際に、透彫の施された刀剣・日本刀の値段は、通常の3倍ほどにもなりました。
武士が優れたデザインの愛刀を持ち、個性を主張したように、映画のヒーローであるホークアイも、見た目の栄える刀剣・日本刀で個性を演出したかったのかもしれないですね。
金属生命体が身に付けた日本の甲冑
- トランスフォーマー/ロストエイジ
-
2014年(平成26年)のアメリカ映画。「マイケル・ベイ」監督。
人類を守り、共存を目指すサイバトロン星の金属生命体「オートボット」と、人類の破滅を目論む「ディセプティコン」の戦いを描くSFアクション大作の第4弾。
2つの陣営に分かれたオートボットとディセプティコンは、戦争によって母国の星を滅ぼしてしまいます。その後、ある目的を持って地球を訪れた彼らは、地球の車や戦闘機などに変形(トランスフォーム)して、世界中に潜伏しました。
人類の味方となるオートボットのひとり、ドリフトが人型のロボットモードに戻ったときの姿が、甲冑(鎧兜)を身に付けた武者そっくりなのです。戦いに使うのは、身幅が広く、反りのない太刀(たち)に似た武器。それも、二刀流。
さらにドリフトは、オートボットの司令官であるオプティマス・プライムを日本語で「センセイ」と呼ぶほどの日本びいきでもあります。ちなみに、ドリフトの声を担当しているのは、俳優の「渡辺謙」です。
そんなドリフトの甲冑(鎧兜)は深みのある青色。そして面頬(めんぽう/めんぼう)を思わせる顔は、輝くような金色です。
ドリフト
甲冑の色に込められた意味
日本の武将が身に付けた甲冑(鎧兜)にも、青色は好んで用いられました。なかでも、植物の藍(あい)から採った染料を深く染み込ませた濃い藍色(または紺色)は「褐色」(かちいろ)とも呼ばれ、平安時代後期から武具甲冑(鎧兜)の装飾に取り入れられるようになります。これは、「かち」の音が「勝ち」と同じなので、「勝色」として縁起が良いとされたのです。

「紺糸縅」とは、鎧のパーツを構成する短冊形の小板「小札」(こざね)を、紺色の糸や革紐で結び合わせる様式のこと。「勝色縅」(かちいろおどし)とも称されました。武士にとりわけ愛された色彩だと伝えられています。
日本びいきなドリフトがこの勝色の意味にこだわって、縁起色である青色を纏っていたのだとしても不思議ではありません。
ところが、トランスフォーマー/ロストエイジの続編にあたる「トランスフォーマー/最後の騎士王」(2017年[平成29年]のアメリカ映画。マイケル・ベイ監督)に登場したドリフトの甲冑(鎧兜)は、鮮やかな赤色に変わっていました。
赤色の甲冑(鎧兜)として思い出されるのは、軍勢が使用する甲冑(鎧兜)や旗などの武具を、赤色を主体とした色彩で揃えた「赤備え」(あかぞなえ)です。
赤備えの部隊と言えば、「武田信玄」率いる武田軍の精鋭である騎馬部隊や、1615年(慶長20年)の「大坂夏の陣」において「真田信繁」(さなだのぶしげ:真田幸村のこと)が編成した軍勢が良く知られています。

当時の赤色は、「辰砂」(しんしゃ)と呼ばれる鉱物を使用していて、たいへんに高価でした。しかも、赤色は戦場で目立ちます。目立つということは、敵から狙われやすいという一面もあり、そのため赤備えは、勇猛果敢な武将が率いる精鋭部隊であることが多く、武勇の象徴として後世に語り継がれることとなったのです。
褐色を纏って縁起を担いだドリフトも、地球での戦いを経て、自らの勇猛さを赤色の甲冑(鎧兜)で示したいと考えるようになったのかもしれません。
日本からも発信を!
ハリウッドの大作映画にも、当たり前のように登場するようになった日本と日本文化ですが、まだまだ間違ったイメージで捉えられることも多いようです。
ホークアイが戦う舞台となった東京の街は、ロケではなくセットを組んで撮影されたためか、看板には面白い日本語が並びました。例えば、「24間営業」、「吠えるバー」、「村のハーフ」、「土牢」など。画像が発表されたときには、洋画ファンから総突っ込みが入ったことは言うまでもありません。
あくまでエンターテインメントの一部として、これらのおかしさを楽しみながら、一方では微力でも、日本文化の本当の魅力を発信することができればと思います。
コメント
コメント一覧 (29)
「煩悩を祓い、魔を退散させる力がある」とは設定からしてよく使われるわけだー。
赤い甲冑の方が強そう!
マニアが誕生。
海外の家って広いから平気で鍛冶場作って刃物試作する人もいる。
日本人より日本のこういう文化に詳しいもんなw
中はほとんどメカですが、あのカッコいい見た目は最高だと思います。
でも、かっこよさと耐久性、当時ならどっちを取るか明白でしょうね…だから珍しいんだろうな
これから刀とかも注意して見ることで、もっと作品について詳しくなれるかも!
エンドゲームは映画館で見たけどキャラクター名は「ローニン」だけど持ってたのは刀っていうより剣だし
海外の人が思う侍や忍者のイメージってちょっと面白いなって思う。
あと、明かに日本ではない背景が多い。
もっと日本文化が浸透することを願いたい。
正しい意味や言葉を知ってもらって、美しい日本刀の価値を世界中の人に知ってもらいたいな。
特にアメリカで作られたゲームなんかは、剣よりも日本刀もってるきゃらのほうがおおいきがするなー( ・∇・)
日本刀はアメリカの人にどストライクなんだろなー
色選びの参考にしたいと思います
戦いの中で美しく映えてカッコ良かったです!
もっと刀剣とか出して欲しいな〜
今後は、思いを感じながら観賞してみる!
※写真や動画を掲載したい場合は、テキスト欄にURLを貼り付けて下さい。