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江戸時代から明治時代にかけて盛んに描かれた「浮世絵」は、日本刀や甲冑と並ぶ日本を代表する美術品として、現在では日本国内はもとより海外においても高く評価されています。

日本文化との出会いをテーマに、2020年(令和2年)6月に開館予定の「名古屋刀剣ワールド」における展示の3本柱は、①日本刀、②甲冑、③浮世絵。武家文化の象徴とも言える刀剣や甲冑と共に、庶民の美術品だった浮世絵を展示し、鑑賞して頂くことで、より幅広い出会いが期待できそうです。今回は、「名古屋刀剣ワールド」の「浮世絵博物館」としての側面をご紹介します。

身近な美術品

皆さんは、日本の美術品と言われて、どんな物を思い浮かべるでしょうか。多くの方は、日本刀甲冑のイメージが強いかもしれません。もちろん、この2つは日本を代表する美術品として横綱的な存在。武家文化を象徴する美術品として、類を見ない華々しさがあるのは事実です。

もっとも、これらは武士などの「上流階級」の人々によって独占的に楽しまれてきました。同じく日本的美意識を反映している美術品でありながらも、日本刀や甲冑とは対照的に、庶民の日常に溶け込んでいたのが「浮世絵」です。

日本においての浮世絵は、あまりに身近であったため、美術品としての価値について正当に評価されていたとは言えません。例えば、引越しの際に茶碗などの陶器が割れることを防ぐため、浮世絵で梱包するといったことは当たり前のように行なわれていたのです。

それもそのはず。高価な日本刀や甲冑とは違い、浮世絵はサイズや人気などにもよりますが、現代の金銭感覚と照らし合わせた場合、ワンコイン(500円)程度で購入可能だったとも言われており、庶民にとって親しみやすい美術品でした。

浮世絵の中で、幕末期の主要なジャンルのひとつとなっていたのが、「軍記物」などに登場する武将や英雄などを題材とした「武者絵」です。写真などが一般的ではなかった時代において、軍記物などの文章や伝説から想起される武将の姿を生き生きとしたタッチで描いた作品は、史料的価値はもちろん、美術品としても高く評価されています。

また、天下泰平の時代においては、子どもの教育のためにも用いられました。当時の人々は、武者絵に描かれている武将達に「あるべき姿」を求めていたとも言えるのです。

そんな武者絵の先駆者と言われているのが、「歌川国芳」(うたがわくによし)。躍動感のある描写に加えて、その天才的な発想力を活かして新境地を切り開きました。それが武者絵や「合戦浮世絵」です。

特に、大判の錦絵3枚を横に並べ、横長の構図でひとつのテーマを描いた作品は、浮世絵の新しい手法として画期的だったとの評価もなされています。

名古屋刀剣ワールド」では、「武田上杉川中島大合戦」をはじめとして、歌川国芳による武者絵や合戦浮世絵が多数、収蔵・展示される予定です。

61_歌川国芳 作「武田上杉川中島大合戦」

歌川国芳 作「武田上杉川中島大合戦」

浮世絵[武者絵](合戦浮世絵/侍・武将浮世絵)
一般財団法人 刀剣ワールド財団(東建コーポレーション)にて保有の浮世絵(武者絵)を解説や写真にてご紹介。

武者絵のみどころ

名古屋刀剣ワールドでの収蔵、展示が予定されている浮世絵(武者絵)の中で、一際目を引く作品が「葛飾北斎」(かつしかほくさい)の肉筆画「加藤清正公図」です。

「北斗一星高」の落款がある肉筆画は、日本国内においてはこれを含めて2例しかないと言われています。葛飾北斎と武者絵の組み合わせは、一見奇異に映るかもしれません。

しかし、歌川国芳は図像を参考にしていた節があるなど、葛飾北斎の作品から多くを学んでいたとも言われています。見方によっては、葛飾北斎が武者絵に多大な影響を与えていたという評価をすることも可能です。

この加藤清正公図は、鮮やかな色彩が目を引きますが、題材となっている「加藤清正」が身に付けている具足を構成している「小札」(こざね)1枚1枚に漆塗がなされているかのような質感を出したり、加藤清正が右手で握っている日本刀の「」の装飾に用いている「鮫皮」(さめがわ)の質感を表現したりするなど、詳細な描写が特徴的な作品。

71_加藤清正公図

加藤清正公図

もっとも、武者絵は肖像画とは異なり、リアリティを追求した絵画ではありません。主題となった武将は、あくまでも物語の登場人物(主人公)的な扱い。すなわち武者絵が出発点となって、主題となった武将の物語が展開されていくキャラクターのような存在でもあったのです。

また、肖像画とは違う、独特の世界観を有する武者絵を新たな境地に導いたと言えるのが、幕末から明治時代に活動していた浮世絵師「月岡芳年」(つきおかよしとし)。

コマ送りのように一瞬を切り取って描写する画法は、臨場感と迫力が感じられ、現代で言う漫画のような作品です。

月岡芳年が描いた武者絵の中でも、特に傑作とされる32作品を集めた「芳年武者无類」(よしとしむしゃぶるい)は、そんな「月岡芳年ワールド」全開。

個人的なオススメは、「左兵衛佐源頼朝」(さひょうえのすけみなもとのよりとも)です。馬上の「源頼朝」に斬られた敵の武士の「やられた~」と言う声が聞こえてきそうな表情と、見事なまでの斬られっぷりが印象的。

88_芳年武者无類 左兵衛佐源頼朝

芳年武者无類 左兵衛佐源頼朝

この武者絵も、名古屋刀剣ワールドで収蔵・展示される予定となっています。鮮やかな色使いに物語性。ぜひ、「生の迫力」を味わって頂きたい作品です。

葛飾北斎
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日本文化との出会いの場

「誰もが楽しめる日本文化との出会いの場」。これが名古屋刀剣ワールドのコンセプトです。

名古屋刀剣ワールドでは、日本屈指の収蔵数を誇る日本刀最大200振、甲冑についても50領の展示が行なわれることが予定されています。

こうした圧倒的なボリュームを誇る展示物によって、日本文化を体感し、再発見することができる博物館ですが、それだけではありません。日本刀、甲冑と並ぶ、もうひとつの目玉として、「刀剣ワールド財団」が所蔵する武者絵や合戦浮世絵をはじめとした浮世絵の展示も予定されているのです。

名古屋刀剣ワールドは、武者絵や合戦浮世絵をはじめとした浮世絵を観ることによっても、日本文化(武家文化)と出会うことができる場だと言えます。

庶民に広く支持されていた浮世絵も、日本文化を代表する美術品であることは前述の通り。なかでも、伝説的な武将を描いた武者絵は、武士達が生きた時代の生活や文化を映し出す「鏡」のような存在だとも言えます。

名古屋刀剣ワールドは開館前ですが、現在でも、収蔵・展示が予定されている武者絵や合戦浮世絵などの浮世絵は、バーチャル刀剣博物館「刀剣ワールド」で観て頂くことが可能。Web上で浮世絵の世界を体感して頂くことができます。

そして、2020年(令和2年)6月に名古屋刀剣ワールドが開館(予定)した暁には、展示してある本物をじっくり観て頂く。このとき、お手元のスマートフォンなどの端末で、刀剣ワールドにアップされている浮世絵と目の前の浮世絵を見比べて頂ければ、2倍楽しめること間違いなしです。

少しだけネタバレ…

88_名古屋刀剣ワールド

名古屋刀剣ワールド(イメージ)

武者絵や合戦浮世絵などの浮世絵に興味が出てきたし、実物を観てみたいけれど、名古屋刀剣ワールドでは、どんな風に観ることができるの?そんな疑問をお持ちの方のために、担当者が少しだけ概要を耳打ちしてくれました。

それによると、名古屋刀剣ワールドで浮世絵が展示されるのは、2階、3階のフロアで、武将や合戦などのテーマに分けて鑑賞することができるようになりそうだとのこと。

現状、多数の浮世絵(武者絵・合戦浮世絵)を常設展示している博物館・美術館は多いとは言えません。

日本刀や甲冑の実物を観て、さらに浮世絵の世界にも浸ることで、戦国の世の物語を再発見する。そんな楽しみ方はもちろん、浮世絵になじみのなかった方でも、展示作品からお気に入りの1枚を見つけ出す、などなど。

豊富な収蔵・展示が予定されている浮世絵博物館・名古屋刀剣ワールドでは、訪れる方の数だけ楽しみ方がありそうです。

名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」
名古屋刀剣博物館 - メーハク「名古屋刀剣ワールド」では、重要文化財などの貴重な日本刀をご覧頂くことができます。
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