72_太刀の鞘書

ある日突然、日本刀のオーナーになった場合、あなたならどうやってその価値を見極めますか?鑑定書はなく、保管用の白鞘には、筆書きで文字を確認することはできます。この文字が「鞘書」(さやがき)です。ここでは、自宅で日本刀を発見したAさん(仮)の話を通じて、鞘書の持つ力について考察します。

「お宝鑑定番組」への応募

Aさんが自宅の屋根裏で日本刀を発見したのは、半年ほど前のこと。

歴史は嫌いではありませんでしたが、テレビなどで時代劇を観る程度。日本刀に造詣が深いわけではなく、目の前にある日本刀については、正直よく分かりません。発見時、「銃砲刀剣類登録証」はありましたが、その日本刀の価値を証明する鑑定書のような物はありませんでした。

39_銃砲刀剣類登録証

銃砲刀剣類登録証

「日本刀は武士の魂」という言葉があるように、日本における日本刀は、単なる武器にとどまらない存在です。また、現代では全世界において美術品としての価値が認められています。

「もしかしたら、お宝かもしれない…」

骨董商や刀剣商など、日本刀に詳しそうな知人もいないAさんは、もどかしい時間を過ごしていました。

そこでAさんは、お宝鑑定番組に出品して、鑑定してもらうことを思い立ちます。

「ウチにお宝なんてあるわけないじゃない…」

妻子からの冷ややかな声にもめげず、白黒はっきり付けようという気持ちで応募しました。その結果、晴れてオーディションを通過。Aさんはワクワクを抑えられずに当日を迎えたのです。果たして、鑑定やいかに!?

秘かな自信

実はAさんには、発見した日本刀について、価値が高い1振(=お宝)であるという秘かな自信がありました。

その根拠となっていたのが、日本刀を保管する際に収納する「白鞘」に筆書きされた文字の存在。

Aさんの日本刀の白鞘には、日本刀鑑定家と思われる人の名前で、日本刀の作者(など)・刃長・白鞘に文字を書き記した年月日などが記載されていました。

「鞘書」(さやがき)と呼ばれている墨書きの達筆な文字を観ていると、白鞘に収納されている日本刀が、何だか由緒正しい1振であるように思えてきたのです。

鞘書には、その白鞘にどのような日本刀の刀身が収められているのかを示す役割があります。茶碗や壺、掛け軸などの骨董品が収納されている箱に、「箱書」がなされているのと同じです。

72_鞘 刀 帝室(鞘書:月山貞一)

鞘書の一例

また、鞘書をするのは、ほとんどの場合日本刀鑑定の専門家だと言われています。

古くは日本刀鑑定を家業としていた「本阿弥家」(ほんあみけ)、戦後では「本間薫山」(ほんまくんざん)や「佐藤寒山」(さとうかんざん)などが有名です。本間薫山と佐藤寒山の2人は、戦後の日本刀を語る上で外すことができない存在。

鞘書を行なった人物の「肩書き」も、その信頼性を高める大きな要素となっていると言えます。

鞘書は、白鞘に収納されている日本刀が本物であるという「お墨付き」を与える行為。そのため、日本刀に造詣が深い人であっても、鞘書を行なうことを躊躇する場合があるとも言われています。どうやら、気軽に鞘書を行なうということは、あまりなさそうです。そうだとすれば、鞘書には、相当程度の信頼性があると言えます。

日本刀に詳しいとは言えないAさんが、鞘書があることイコール、自身の日本刀が相応の価値を有する1振であるという認識をしていたとしても不思議ではありません。

鞘書と鑑定書

72_鑑定書(背景水色)

鑑定書

日本刀の価値を証明する物として、「公益財団法人 日本美術刀剣保存協会」などの日本刀鑑定機関が発行している「鑑定書」があります。この鑑定書があることで、(刀剣の世界における)公的な価値が保証されたと言えるのです。

もっとも、その鑑定を行なうにあたっては、当該日本刀の鞘書についても、判断材料とされていると考えられています。

大まかに言えば、鞘書は個人(鑑定人)による日本刀の真贋を鑑定した結果(真正)の保証であり、鑑定書は、鑑定機関による価値の保証。両者の間には、厳然とした優劣があるわけではないのです。

したがって、鑑定書が付いていないAさんの日本刀は、鑑定機関による鑑定がなされているかについては不明ですが、そのことをもって価値が低いと断定することはできません。鑑定書が付いていなくとも、鞘書から日本刀の価値を知ることは可能だと言えるのです。

Aさんの日本刀については、鞘書がされていることから、日本刀に造詣の深い鑑定人が、自らの名前と責任において日本刀が真正であることを保証しているとも思われます。

ただ、鞘書を全面的に信用してしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまう場合も…。安心するためには、まだクリアすべき問題が残っているのです。

鞘書にもニセモノが…

鞘書には、鑑定書に勝るとも劣らない証明力があることが分かりました。すなわち、白鞘に収納されている日本刀が真正であることを証明する鞘書自体にも、相当の価値があると言えるのです。

そうなると、切っても切れないのが「ニセモノ」の存在。ニセモノの鞘書によって、ニセモノを本物の名刀として取り扱ってしまうという事態が発生してしまう恐れがあるのです。

鞘書にもニセモノがあることを知ったAさんは、秘かに抱いていた自信がしぼんでいくのを感じていました。

忌まわしいニセモノを見分けるにはどうしたらいいのでしょうか。ヒントは、一時期問題となった芸能人の「偽サイン」の見分け方にあると思われます。その方法は意外と簡単。本物と見比べること、それだけです。

ニセモノは、本物に似せようとしていることで、その特徴を大げさに再現しています。また、字体を似せることが重要であるため、本物に比べて勢いがありません。そうした材料をヒントにして、ニセモノの鞘書を見抜くことが可能となるのです。

自分の日本刀の鞘書が本物であってほしい。Aさんは祈るような気持ちで鑑定結果を待っていました。

Aさんの出した結論

結局、Aさんが鑑定を依頼した日本刀に下されたのは、鞘書通り真正な1振という鑑定。

今回の出来事を機に日本刀に興味を持ったAさんは、将来的に日本刀のコレクションを増やしていきたいという気持ちを持つようになりました。ですが、2振目を手に入れられるのはいつのことになるのかは分かりません。

それでも、鞘書は日本刀を見極めるための有力な材料ではある一方、絶対的な物ではない、ということが分かったことは収穫です。

「その時」に備えて鞘書も刀身も、本物を観る機会を増やしていかなければいけないと、心に誓うAさんでした。

鞘書に関する基礎知識をご紹介します。

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