103_日本刀鑑賞の基礎知識

日本刀は、予備知識なしで眺めても、迫力を感じられる美しい美術品です。しかし、基本的な知識を身に付けて鑑賞することで、楽しさは何倍にもなり、感動も大きくなります!

この記事では、日本刀を鑑賞するときの見どころなど、基本的な知識をご紹介。名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」(愛知県名古屋市中区栄)で、貴重な名刀達に出会ったときの一助になれば幸いです!

日本刀は美と技術の集大成

日本刀鑑賞では、姿全体を指す「体配」(たいはい)と、「地鉄」(じがね)、「刃文」(はもん)などの各部分の細かなポイントまで、総合的に注目してみましょう。そうすることで、なぜ日本刀は力強く美しいのか、そこには刀工のどんな工夫が織り込まれているのか、様々な秘密を解き明かすことができるのです。

それでは、日本刀の見どころごとに、詳しく解説していきます。

日本刀の姿

戦い方で変化した反り

日本刀で効果的に斬るためには、叩いて引かなければなりません。その際の衝撃をやわらげ、容易に切り抜けられるように付けられたのが「反り」(そり)です。また、スムーズに抜刀できるというメリットもありました。

反りの程度や、反りが最も強くなる位置は、戦闘様式の変化に合わせて時代ごとに違いがあり、平安時代末期から室町時代前期にかけては、柄に近い腰のあたりが強く反っている「腰反り」(こしぞり)が多く見られます。

腰反りは、騎馬で戦うときの抜刀や斬撃に適しており、当時の戦いは馬に乗っての一騎打ちがメインであったことが分かる刀姿です。

室町時代後期から安土桃山時代以降の戦国の世では、徒歩(かち)による戦いが多くなります。そのため、地上で抜刀し、扱いやすくする目的で、反りの中心は鋒/切先(きっさき)に近くなり、反りも浅めになりました。この刀姿は、兵が入り乱れて戦う集団戦に適していたのです。

103_反りの種類

反りの種類

重ねには甲冑のタイプが影響

刀身身幅や、厚さを表す「重ね」(かさね)も、時代によって変化していきました。鎌倉時代には頑丈な甲冑が登場し、これを断ち切るために、重ねが厚く、重くて丈夫な「大太刀」(おおたち)が用いられるようになります。

ところが、鎌倉時代後期、武士と日本刀にとっての大きな転機が訪れました。それが「文永・弘安の役」、いわゆる元寇(げんこう:蒙古襲来のこと)です。

それまでの、切れ味よりも重さを重視した太刀は、厚い革を使った蒙古軍の甲冑には通用しません。しかも集団戦を得意とした蒙古軍の攻撃に対して、重さのある太刀では身軽に動くことができなかったため、苦戦を強いられました。

蒙古襲来を教訓として、その後、刃味(はあじ:実戦における刀身の価値)を重視したことで重ねが薄くなります。そして南北朝時代には、軽量化によって強度が下がってしまうのを補うために、素材の「玉鋼」(たまはがね)を数種類組み合わせるという技法が編み出されました。これが、名工「正宗」によって確立した「相州伝」(そうしゅうでん:現在の神奈川県で栄えた伝法)の鍛錬法です。

室町時代になると、機動性を重視した軽い甲冑が多く使用されるようになり、それに対応して、重ねが薄く扱いやすい日本刀がメインとなりました。しかも、断ち切る能力を高めるために、刃の部分が薄く鋭利になっていくのです。

103_重ね

重ね

このような日本刀の姿の違いに目を向けて、当時の時代背景や戦闘方法を想像してみるのも面白いのではないでしょうか。

日本刀制作における代表的な刀工をご紹介致します。

相州伝についてご紹介します。

地鉄に現れる個性

次に、刀身の地肌にあたる地鉄(じがね)を見ていきましょう。

一見、黒っぽいだけに思える地鉄の部分ですが、よく目を凝らすと細かな文様が現れているのが分かります。これが「鍛肌」(きたえはだ)で、日本刀の大きな魅力のひとつです。

地鉄を槌(つち)で叩いて鍛えるとき、鏨(たがね)で切れ目を入れて、縦横交互に折って延ばす「十文字鍛え」にすると、波状の「板目肌」(いためはだ)や、木の年輪のように見える「杢目肌」(もくめはだ)になります。「備前伝」(びぜんでん:現在の岡山県東部で栄えた伝法)の作品などに多く見られる特徴です。

地鉄を交互ではなく、一方向に折り畳みながら延ばすと、まっすぐに目の通った「柾目肌」(まさめはだ)になり、これは「大和伝」(やまとでん:現在の奈良県を中心に栄えた伝法)に多い特徴として挙げられます。

また、大きくうねる波状の「綾杉肌」(あやすぎはだ)は、出羽国月山(現在の山形県)の刀工が得意としました。

もちろん、これらの鍛肌は単純に現れるわけではありません。例えば、板目肌に杢目肌が組み合わされた地鉄なら、「板目肌に杢目交じり」などと表現されます。

103_地鉄の種類

鍛肌の種類

さらに、「地景」(ちけい)と呼ばれる変化が起こることがあり、白っぽい複数の筋に見えるのは「砂流し」(すながし)で、刃中の鍛え目で鋭く光る筋が「金筋」(きんすじ)です。鍛肌を見分けられるようになったら、かなりの日本刀ファン!

もうひとつ、肌目がはっきりと現れている場合は「肌立った」、見分けるのが難しいほど細かく出ていれば「肌が詰む」と表現。そんな専門用語を覚えておくのもおすすめです。

備前伝についてご紹介します。

大和伝についてご紹介します。

日本刀の地鉄に関する基礎知識をご紹介します。

日本刀の華・刃文

刃文とは

たくさんの魅力を持つ日本刀ですが、やはり最大の見どころと言えば刃文(はもん)ではないでしょうか。刃文とは、地鉄に対して白く浮き上がるような刃の模様で、「焼き入れ」の過程で生まれる日本刀の特色です。

焼き入れでは、まず砥石の粉や炭の粉などを水で練り合わせてドロドロにした「焼刃土」(やきばつち)を刀身に塗る「土置き」(つちおき)を行ないます。このとき、硬くしたい刃の部分には薄く、それ以外は厚く塗るのが基本。この厚みが違う焼刃土の境目が刃文となるのです。

刃文は、自然にできあがる模様ではなく、刀工のセンスによって作られます。刃文に目を向ければ、刀工の個性が輝いているのを発見できるでしょう。刀工個人だけでなく、流派によっても独自の土置きがあり、違いがはっきりと表れています。

そして、土置きした刀身を約800℃まで均一に熱したのち、水に入れて一気に冷却。急速に冷やすことによって、素材である玉鋼の伸縮が起こります。

刀身は峰/棟(みね/むね)側に反り返るため、焼き入れでは、反りと刃文という日本刀ならではの特徴が誕生するのです。

日本刀の刃文に関する基礎知識をご紹介します。

刃文に見る造形美

刃文は、その形によって分類され、それぞれに名前が付けられていますが、大きな区別として、まっすぐな「直刃」(すぐは)と、波打つように見える「乱刃」(みだれば)があります。

乱刃はさらに細かく分けることができ、一定の間隔で山が繰り返される「互の目」(ぐのめ)や、丁子(ちょうじ)の実を連ねたような「丁子」は、一般的な刃文。また、ゆったりとうねる波の形は「湾れ」(のたれ)です。

直刃を焼く刀工としては、鎌倉時代に山城国(現在の京都府南部)で活躍した「粟田口派」(あわたぐちは)や「来派」(らいは)、江戸時代の「井上真改」(いのうえしんかい)が代表的。

互の目が多く見られる有名な刀工は、「江戸新刀」の異才「長曽祢虎徹」(ながそねこてつ)です。変化に富んだ「互の目乱れ」を得意としました。

丁子を取り入れた刀工は、「備前一文字派」や、江戸時代の「石堂派」が挙げられます。また、鎌倉時代の「古一文字派」の作品に多いのが、丁子の花が重なり合う華麗な「重花丁子」(じゅうかちょうじ)です。

より個性的な刃文では、杉林のシルエットのような「三本杉」(さんぼんすぎ)は、美濃国関の「孫六兼元」(まごろくかねもと)が得意とし、打ち寄せる大海の波を思わせる「濤乱刃」(とうらんば)は、江戸時代前期に大坂で活躍した「津田越前守助広」(つだえちぜんのかみすけひろ)が創始しました。

「刀剣ワールド財団」が所蔵している打刀「銘 津田越前守助広 井上真改」は、に切られた通り、越前守助広と井上真改の合作刀。2人は「大坂新刀」の双璧と称された名工です。

この合作刀の刃文は、大互の目乱れに小湾れ交じり。越前守助広が創始した濤乱刃調となっています。

103_刀 津田越前守助広 井上真改 (延宝三年二月日)

刀 津田越前守助広 井上真改

日本刀制作における代表的な刀工をご紹介致します。

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刃文を彩る華麗な働き

刃文と地鉄に現れる変化を「働き」と言い、星屑を散らしたように光って見える場合は「」(にえ)。天の川のように霞んで見える状態を「」(におい)と言います。沸がメインとなっている刃文を「沸出来」(にえでき)、匂がメインであれば「匂出来」(においでき)です。

また、沸や匂が刃文の縁から刃先に向かって線状に差し込んだ働きを「」(あし)と言い、「長い足」と短い「小足」(こあし)があります。足が鋒/切先の方を向いていれば「逆足」(さかあし)です。

一方、刃縁から離れて、刃文の中に木の葉を散らしたように点在している働きは「」(よう)と言います。

さらに、直刃の縁がほつれたように喰い違って見える働きが「喰違刃」(くいちがいば)で、刃縁が折り重なっていれば「二重刃」(にじゅうば)です。

葉とは逆に、刃文が地鉄の方へ三日月状に離れているように見えるのは「打ちのけ」と呼び、二重、三重に現れることもあります。「三条宗近」(さんじょうむねちか)作の名刀「三日月宗近」は、三日月形の打ちのけが名前の由来となったことでも有名です。

103_喰違刃_打のけ_二重刃_逆足_葉_小足_長い足_砂流し_金筋

働きの種類

働きは、実物をじっくりと鑑賞しなければ、見分けることは難しいかもしれません。だからこそ、見付けられたときの感動もひとしおです。

日本刀全体の姿や、地鉄、刃文を間近に鑑賞することで、お気に入りの1振を見付けてみてはいかがでしょうか。

日本刀制作における代表的な刀工をご紹介致します。

三日月宗近についてご紹介します。

【関連サイト】
大和伝 備前伝 相州伝 五箇伝 正宗 津田越前守助広 井上真改 長曽祢虎徹 孫六兼元 三条宗近 三日月宗近