戦国時代の「三英傑」こと「織田信長」、「豊臣秀吉」、「徳川家康」の名は、きっと小さな子ども達も聞いたことがあるのではないでしょうか。2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」では、主人公の徳川家康はもちろん、織田信長も豊臣秀吉も揃って登場。テレビを見た子ども達の心にも印象付けられるほど強烈な個性を放っていました。

そんな三英傑に、ちょっと興味を持った子ども達にご紹介したい絵本が「あっぱれ 武将絵本」シリーズの「ノブーナガ」、「ひでよーし」、「いえやちゅ!」の3作品です。子ども達自身が描いたような伸びやかで楽しい絵柄の三英傑が大活躍します。作者のイラストレーターで絵本作家でもある「丸山誠司」(まるやまさとし)さんは岐阜県大垣市出身、愛知県一宮市育ち。三英傑が自在に使いこなす尾張弁・三河弁も必見です。

言葉あそびが楽しい「ノブーナガ」

ガイコクからお客さんがやってきた!

「あっぱれ 武将絵本」第1弾は、戦国の覇者・織田信長が主人公の「ノブーナガ」。

ある日、織田信長の城へ3人の外国人が訪ねてきます。白いフリルの襟にマント、ふくらんだズボン、華やかな衣装は異国情緒たっぷりです。

3人の名前は、「ルーカス」、「ブルーノ」、「アントーニオ」。この名前は、冒頭では明かされず、最後に名乗ることになるのですが、織田信長は外国からのお客さんを大歓迎し、自己紹介をはじめます。

「わしが おだのぶなが だがや」

「オヤ? ニョブニャガ」

「おや? にょぶにゃが ではにゃーぞ お・だ・の・ぶ・な・が」

「オ・リャ・ダ・メ・ナ・ガ」

織田信長が駆使する岐阜言葉まじりの尾張弁は、外国からのお客さんにはなかなか通じません。さすがの織田信長も「だれが おりゃだめなが じゃ ぶれいもの!」と怒り出し、刀を振り下ろしてしまいます。

ページをめくった瞬間に、見開きいっぱいに描かれた刀が目に飛び込んでくるので、インパクトは絶大。3人の外国人も驚いて、思わず「オーノー」。

「オーノー ではにゃーぞ おーだー じゃ」と、すかさず突っ込みを入れた織田信長は、1文字ずつ練習させることになりました。

ラストのセリフは「ナガイキシヨマイ!」

織田信長
織田信長

ぺこっと頭を下げて「おだの お は おじきの お」と教える織田信長や家臣達に対して、3人の外国人は「オシリ ノ オ」とおしりをつきだしてペコ。絶妙に、おかしな間違いをする受け答えには、大人でもついニヤニヤしてしまう面白さです。ページをめくるたびに、「次はどんなダジャレが登場するかな?」とワクワク。大胆な構図が次から次へと現れる絵柄にも驚きがいっぱいです。

織田信長と3人の外国人はどんどん仲良くなり、カステーラやキャラメール、コンペイトーなどの外国みやげも披露。ここで3人が、ルーカス、ブルーノ、アントーニオと名乗ると、織田信長は自らの名前をダジャレにして返します。織田信長の返しに感心したルーカス、ブルーノ、アントーニオはついに織田信長の名を正しく発音するのでした。

言葉あそびが多いので、子ども達に読み聞かせするとより楽しめる絵本です。織田信長の尾張弁に、ぜひチャレンジしてみましょう。

「よーし!」が口ぐせ?「ひでよーし」

天狗と仲良く町を見まわって「よーし!」

天下人・豊臣秀吉が主人公の「あっぱれ 武将絵本」第2弾「ひでよーし」をご紹介します。

豊臣秀吉は、朝起きたときから身だしなみにも天気にも、チェックに余念がありません。

「はやおき よーし てんき よーし」

「きがえ よーし ちょんまげ よーし はなげ よーし」

「ひげ よーし わしは ひでよーし」

しっかり自己紹介も織り込みました。そして、天狗(てんぐ)と仲良しだと言う豊臣秀吉は、天狗と一緒に白馬に乗って空を飛び、町の見まわりに出かけます。家臣達に見送られて「きぶん よーし」。

豊臣秀吉が大仏の鎮座する寺に差しかかると、大仏は足がしびれてつらそうです。豊臣秀吉は代わりの大仏を呼んで、足がしびれた大仏を休憩させることにしました。ピンチヒッターの大仏には鹿が付いてきています。奈良の大仏なのでしようか?

次に飛んだ先では、風神(ふうじん)と雷神(らいじん)がケンカの真っ最中。天候が荒れ、農家の人々も困っています。いっこうに終わらないケンカにしびれを切らし、大仏が風神雷神を両手に掴んで仲裁することになりました。豊臣秀吉いわく「だいぶつさまが おこると こわゃーの」。

さらに、小さな池で大きくなり過ぎたナマズを発見します。大仏と風神雷神が協力して地面を掘ると、大きな湖ができあがりました。ナマズの機嫌も良くなり、豊臣秀吉は「これで じしんが くること なーし」と一安心。家臣達や城の侍女達、町の人々も集まってきます。天狗が焚火(たきび)を焚くと、湖が温泉になり「みなも でーら きげんよーし!」。ご満悦の豊臣秀吉でした。

大仏に託した天下泰平の願い

豊臣秀吉が仲良しの天狗と一緒に、いろいろな問題を丸く収めていく楽しいストーリーです。

戦国時代の気風が残っている中で、天下人となった豊臣秀吉が何とか世の中を治めていこうと気を配っているようにも見えます。

足がしびれてしまった大仏は、豊臣秀吉が「方広寺」(京都府京都市東山区)に安置した大仏(廬舎那仏:るしゃなぶつ)かもしれません。この大仏は1596年(文禄5年)に起こった「慶長伏見地震」によって損壊してしまいます。

ストーリーの後半に登場するナマズは、豊臣秀吉のセリフにもある通り地震を起こすと考えられていた生き物であり、生涯に何度も大地震に見舞われた豊臣秀吉だからこそ、ナマズが暴れないように機嫌を取っておきたいと考えたのでしょう。

豊臣秀吉
豊臣秀吉

また、風神雷神は人の力が及ばない自然の大きな力を表しているともされ、農家の人々が困らないように、大仏が取り押さえているのも象徴的です。子ども達と一緒に絵本を読みながら、「奇想天外な物語の裏に豊臣秀吉の願いは隠されているのかな?」と考察してみるのも楽しいのではないでしょうか。

ほっぺに孫のちゅっがほしい「いえやちゅ!」

くせもの現る!「おたぬきまさ」の加勢が頼もしい

「あっぱれ 武将絵本」第3弾は「いえやちゅ!」。主人公は、小さな孫の「徳川家光」が遊びにきて大喜びの徳川家康です。徳川家康は孫を片手で軽々と抱っこしています。

「じいじの なまえ おぼえとるだら」

「と・く・が・わ・い・え・や~~」

すると、孫が徳川家康のぽっぺに「ちゅ!」。

「ちゅ!」が、たいそう気に入った徳川家康は、懐から「葵の御紋」(あおいのごもん)の袋を取り出して、「どえらい いいもの あげるで はんたいの ほっぺに まっぺん いまのを ほれ」、「と・く・が・わ・い・え・や~~」と促しました。

ところが次の瞬間、しゅっと飛び込んできたのは全身黒づくめの忍者! 徳川家康の「どえらい いいもの」を狙ってきたのでしょうか。「くせものじゃ であえ であえ おたぬきさま いざ おでましあれ~」と声を上げる徳川家康。その声を聞き、頭に葉っぱを乗せたタヌキ達が「ぽんぽこぽんのぽん」と駆け付けます。タヌキ達は徳川家康そっくりに化けて、本物の徳川家康と一緒に忍者を取り押さえ、外へ放り出しました。

さあ、これでもう大丈夫。ふたたび徳川家康は「ほっぺに まっぺん さっきのじゃ」とねだりますが、またまた邪魔が入ってしまうのです。

次期将軍の徳川家光はかわいい孫

かわいい孫からの「ちゅ!」がほしかっただけなのに、次々に起こる大騒動。騒動が大きくなればなるほど味方のタヌキの数も増え、タヌキが化けた徳川家康がどんどん増えるところには、子ども達も大いにウケるのではないでしょうか。たくさんの徳川家康の中から、どれが本物か子ども達と一緒に当ててみましょう。

絵を見ているだけでも楽しめる絵本ですが、スケールアップしていく騒動が面白く、大人も夢中になれます。徳川家康が「駿府城」(静岡県静岡市)で遭遇したという妖怪「ぬっぺっぽう」のエピソードも登場するところでは、ニヤリとしてしまうこと請け合いです。

徳川家康の孫として登場する徳川家光は、のちに徳川幕府3代将軍となります。2代将軍の「徳川秀忠」と、織田信長の姪にあたる「」(ごう)の次男で、「長丸」という兄がいましたが早世していたため、徳川家光は嫡子として扱われていました。

しかし、弟の「国松」(のちの徳川忠長[とくがわただなが])が生まれると、両親は容姿端麗で利発な国松を寵愛。家臣の間からも「国松を次期将軍に」との声が上がるようになったのです。

徳川家康
徳川家康

これに慌てたのが、徳川家光の乳母(うば)であった「春日局」(かすがのつぼね)でした。春日局は徳川家康に直訴。徳川家康によって徳川家光が次期将軍に指名され、この問題は決着しました。

こうした歴史を踏まえて見ると、徳川家康にとって嫡孫である徳川家光は、やはりほっぺに「ちゅ!」としてほしいくらいかわいい孫だったのかなと思えます。

なお、徳川家康が孫にあげようとしていた「どえらい いいもの」は、「じいじの だーいすきな おまんじゅう」。孫とタヌキ達は、大喜びで味わったのでした。